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コロナが招く「経済危機」需要、供給、金融、のトリプルショック - livedoor


3月13日の東京株式市場では日経平均株価が1万8000円割れの大暴落。取引時間中には30年ぶりとなる記録的な下げ幅となりました(東洋経済オンライン編集部撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。それに伴って、金融市場も乱高下を繰り返し、すでに混乱を極めています。アメリカのドナルド・トランプ大統領は3月13日、ホワイトハウスで記者会見し、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、非常事態を宣言しました。最近では「コロナショック」という表現も使われるようになり、今後の問題深刻化への懸念も高まっています。

これまでの過去の様々な危機との比較もなされるなかで、ウイルス感染拡大を直接の要因とするコロナショックは、2008年に起きた金融危機としての「リーマンショック」とは性格が異なるという指摘も少なくありません。

一方で、私自身は、1997年に起きた「アジア通貨危機」を当時の勤務先であった東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)のアジア拠点で直接経験していますが、その経験から、コロナショックは、危機管理の観点からは、金融危機さらには経済危機にまで陥る可能性があると考えてプロアクティブに準備を進めておくことが必要であると考えています。このようなことを背景として、本稿では、コロナショックが金融危機や経済危機を引き起こすリスクシナリオやそのリスク要因について考察したいと思います。

厚労省による対策と基本的な考え方

下記の図表は、厚生労働省が2月24日付で発表した新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(第3回)の資料の抜粋で、同感染症対策の目的やその基本的な考え方がまとめられたものです。


(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があるので、その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

私は『「日本のコロナ対策」間違えてはいけない戦い方 医療崩壊防止が第一、批判応酬しても仕方ない』(2020年3月9日配信)において、「クリティカルシンキング」「ストラテジー」「医療ビジネス論」の3つの複合的な視点からコロナウイルス対策で最も重要な問題について論じました。

厚労省が採った対策やその基本的な考え方は、上記視点とも合致するものであると分析されます。同図表にある通り、日本政府は「流行のピークを下げる」×「患者の増加のスピードを抑える」という2つの軸に注力しており、現時点においては先進国のなかでも比較的プロアクティブな対策を施してきている国の1つではないかと観察されます。

吉村洋文大阪府知事は、3月11日、大阪府内の新型コロナウイルス感染者の入院先を症状やリスクに応じて振り分ける司令塔組織「入院フォローアップセンター(仮称)」を立ち上げる方針を明らかにしました。感染者の大半が軽症か無症状で専門の医療機関に入院しているという現在の状況を、重症者の病床を優先的に確保、軽症や無症状の人は一般の医療機関で受け入れるように運用を見直すという内容です。

重症者を守り、また医療崩壊を起こさせないために、司令塔組織が治療の優先度が高い順に入院先医療機関の選別を行い、患者を振り分ける。私は、大阪府のこの施策についても、3月9日記事で示したクリティカルシンキングの分析結果から見て極めて合理性の高いものであると考えています。コロナウイルス感染拡大への対応としては、「流行のピークを下げる」×「患者の増加のスピードを抑える」という2つの軸に注力し、医療崩壊と防ぐということが最大効果ポイントであることは確実ではないでしょうか。

なお、日本政府は、中国やその他医療崩壊を起こしてしまった国々のケースを分析して、人々を実体的に病院に簡単には行けないようにする措置(フェーズ1)→イベント等の自粛要請(フェーズ2)→小中高校の閉校要請(フェーズ3)を経て、より強力かつ強硬な措置を発動できるように準備している(フェーズ4)という段階に進んできているものと分析しています。

「需要」「供給」「金融」のトリプルショック

次に、下記の図表を使って、「コロナショック」にかかわるリスクシナリオについて考察していきたいと思います。まず、経済においては、「需要ショック」「供給ショック」「金融ショック」の3つがトリプルショックと呼ばれますが、これらの中でも、「需要ショック」は、私たち自身が消費者としてすでに体感し、懸念し始めているのものではないでしょうか。


新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってこのまま経済活動が多大な影響を受けることで、自分自身の所得が減少、それに伴って消費を手控えようとする動きにつながっていくことです。すでにこのタイミングでは不要不急のものは購買を控えようと思っている人も少なくないと思います。「需要ショック」のもう一つの重要な主体は企業です。企業においては、何よりも資金繰りの悪化が最も懸念されるところです。また、それに伴って設備投資が減少してくることも「需要ショック」の重要な内容として挙げられます。

次に「供給ショック」を見てみましょう。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、まずは工場などの供給能力の低下が懸念されます。その集合体としてのグローバルサプライチェーンも大きく影響を受けるでしょう。感染の当初の震源地だった中国を起点とするサプライチェーンが引き続き大きなダメージを受けるのは言うまでもありませんが、感染拡大が各国で続けば、中国のみならずグローバルなサプライチェーンに影響が及ぶのは確実です。

また、すでに日本でも経験しているように、今後もイベントやコンサートの中止、店舗や各種施設の閉鎖も拡大してくることも予想されます。イタリアでは北部地方などの都市封鎖が行われ、またアメリカではソーシャルディスタンスと呼ばれる大規模な都市単位での隔離もすでに叫ばれ始めています。アメリカが欧州との隔離政策を発表したことで、各国の間、あるいはそれぞれ国内で交通網が遮断されることも経済にとっては大きなリスク要因として指摘することができます。なお、日本については、2019年10〜12月期GDP改定値が年率7.1%減に下方修正されているという状況でもあり、「需要ショック」と「供給ショック」から日本経済が受ける影響は甚大だと考えられます。

これら「需要ショック」と「供給ショック」とが相まって、コロナショックはすでに「金融ショック」を引き起こしています。

まず為替については、米ドルも乱高下を続けている一方で日本円に対して先月下旬から見ると急激な下落も記録しました。米ドル下落時の要因としては、安全資産としての米国債が買われたことによって米国長期金利が低下、日米の金利差縮小によるドル円の下落といったことが挙げられます。

もっとも、基軸通貨としての米ドルの信用力が潜在的に弱まってきているという可能性も指摘できるのではないかと思います。これはコロナウイルス感染拡大終了後も見逃せない点になるのではないかと思います。米ドルの乱高下以上に懸念されるのが新興国通貨の下落です。特に後で詳しく述べるように、東南アジア通貨や長期債を発行している産油国等の為替が下落していることは要注意です。

金利については、先に述べたように、米国債が買われたことに伴ってアメリカの長期金利が急激に低下しています。昨年7月までは2%以上、それ以降も1.5%以上で推移していましたが、先月下旬から急激に下落し、今週にはいったん0.5%程度までの下落を記録しました。アメリカの金利が低下したことで日本や欧州でもさらなる金利低下が予想されていますが、すでにゼロ金利となっていることで金融政策としては打つ手に乏しい現状です。金融緩和への余地がもっとも大きかったアメリカですが、足元では上記水準までもの金利低下という状況にもあって、すでにマイナス金利政策が真剣に検討され始めています。

ハイイールド債の価格が低下

株式市場が乱高下を続け混迷を深めていることは、ここであらためて記述する必要もないと思いますので、次に債券市場について見てみましょう。アメリカのハイイールド債(利回りが高く信用格付けの低い債券)はアメリカのシェール等のエネルギー関連企業がかなりの構成比率を占めています。これらのハイイールド債は、コロナショックに伴う原油価格下落の影響を直接的に受け、価格が低下しています。また、サウジアラビア、オマーン、ナイジェリア、アンゴラといった産油国が発行する長期債の価格も大幅に下落しています。特に国の格付が低いナイジェリアの動向には注意が必要です。

原油については、3月9日午前の取引で原油価格が1991年の湾岸戦争以降で最も大幅な下落を記録しました。コロナショックを受けて需要が大きく減退するとともに、石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成するOPECプラスが減産強化で合意に至らなかったこと、さらにはサウジアラビアがこのタイミングで増産を決定するなど主要産油国が価格戦争に突入したことが背景にあると見られています。サウジアラビアの戦略は、長期にわたって原油価格を低めに誘導することによって、アメリカのシェール関連企業をエネルギー市場から締め出すことではないかとも考えられます。したがって、原油価格が簡単に大きく上昇する可能性は小さいものと予測されます。

コロナショックが引き起こしたトリプルショックを踏まえた上で、危機管理としてのワーストケースを想定した場合、重大なリスク要因としてどのようなものがあるかを考えてみます。ここでは、3つのリスク要因を指摘しておきたいと思います。


第一に、「新興国危機」というリスクです。歴史的に、金融・経済危機が起こる際には新興国が震源地になる、あるいは先進国が震源地になる時でも新興国へ飛び火し、新興国でより深刻な問題へ発展するというパターンを繰り返してきました。今回のコロナショックにおいても、新興国からのキャピタル・フライト、つまりは資金流失が悪化しないかという点に留意する必要があります。

第二に、「ハイイールド債券市場の崩壊」というリスクです。先に述べた通り、原油価格の下落にともなって、ハイイールド債や産油国が発行する長期債の価格が大きく下落しています。今後原油価格の下落が継続し、エネルギー関連企業が資金繰りなどに窮してくるような状況においては、ハイイールド債券市場が崩壊するという可能性も否定できないでしょう。

第三に、これらのリスク等の進展に伴い、「金融危機」が起きる可能性もリスク要因として考慮すべきタイミングになってきているのではないかと思います。金融危機については、コロナショックの最中に新興国危機やハイイールド債券市場の崩壊等が実際に起きたら、危機がそこまでにも及ぶ可能性は否定できないでしょう。

アメリカもマイナス金利政策を検討か

また先に述べたように、金融緩和の余地が大きかったアメリカですが、すでにマイナス金利政策を検討せざるを得ない状況にまで陥っています。本当にFRBがマイナス金利導入にまで踏み切るかはわかりませんが、もしそのような選択をした場合、日欧の金融機関が経験した以上に、アメリカの金融機関のBSやPLに対しては多大なる影響を及ぼすことになるでしょう。

以上の分析をもとに、ボトルネックとなり得る主体として3者を挙げておきたいと思います。まず1997年のアジア通貨危機においても問題の中核であったインドネシアなどの新興国です。今回のコロナショックでも新たな危機としての震源地となる可能性があり、留意が必要です。

次に、長期債を発行している産油国です。先に述べたように、サウジアラビア、オマーン、ナイジェリア、アンゴラなど産油国発行の長期債価格が下落していますが、これら産油国がボトルネックとなる可能性が懸念されます。産油国でもあるロシアやブラジルの為替が下落していることも気になるところです。

そして、3つ目の主体は、金融機関です。すでに指摘した通り、先進国でさらに金利が低下してくると、それ自体で直接的な影響を受けることになります。また見逃せないのは、金融機関におけるエネルギー関連でのエクスポージャーが大きいということであり、金融機関が大きな脆弱性を抱えているということです。そうなった場合、グローバルの金融機関において最も大きな影響を受けるのは、近年、新興国融資やエネルギー関連融資を積極的に拡大してきた日本のメガバンクとなる可能性が大きいのではないかと考えられます。

先に述べた「需要ショック」「供給ショック」「金融ショック」の「トリプルショック」を考えると、保有したり担保となっている各種資産価格の下落から、金融機関のバランスシート(B/S)もすでにかなり棄損しているものと分析されます。

下記図表に示した「経済危機へのリスクシナリオ」を考える上で、私は自身が体験したアジア通貨危機での出来事が記憶に甦っています。


1997年 7 月、タイから始まったアジア通貨危機の最中に、私は東京三菱銀行のシンガポール拠点に勤務していました。東南アジアのシンジケートローン、プロジェクトファイナンス、起債、M&Aアドバイザリーなどの投資銀行業務を担当し、週の半分はシンガポール、残りの半分は東南アジアへの出張という生活を送っていました。

タイから発火したアジア通貨危機は、その後、マレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国などに飛び火し、タイ、インドネシア、韓国はIMF管理下に入るという厳しい展開となりました。日本も対岸の火事ではなく、アジア向け貸出債権が不良債権化し、政府が緊縮財政を取っていたタイミングとも重なり、翌年の1998年には金融危機が勃発しました。1998年10 月の長銀国有化、同年 12 月の日債銀国有化などは、まだ記憶に新しいのではないかと思います。

1998年にはジャカルタで暴動が勃発した

シンガポールでは、ロイターなどの金融ボードに示される対ドルレートが刻一刻と切り下がっていく状況を目の当たりにしたことを今でもよく覚えています。私はその頃、東京三菱銀行が主幹事アレンジャーとして組成した、インドネシア最大の製薬会社向けシンジケートローンを担当していました。その組成が完了し、ほっとしたところでアジア通貨危機に見舞われたのです。その後、その製薬会社も債務不履行に陥り、年末には大規模な債権者集会を開催したことも目に焼き付いている光景の1つです。インドネシアでは、秋口からジャカルタで暴動が起きるリスクが真剣に語られるようになり、実際に翌年の1998年には暴動が勃発し、独裁政権だったスハルト政権も崩壊していくことになります。

当時、日本ではあまり報道されなかった出来事としては、インドネシアがIMF支援を受ける直前に、同じイスラム教の産油国に支援を求めたということがあります。地政学的なパワーバランスが崩れることを怖れたアメリカから政府高官がジャカルタに入り、その後IMFからの支援が決まりました。

1997年12月には、親しくしていたインドネシア最大級の華僑系財閥グループの番頭から、「道昭、もうしばらくはインドネシアへの渡航は控えた方がいい。うちの華僑系経営人はもうみんなシンガポールへ逃避した。暴動時の脱出用にヘリコプターも何台か追加で購入したところだ」とアドバイスされました。その直後に空港に向かい、シンガポールへと戻った時、私の前のフライトであるジャカルタ発シンガポール行きのシンガポール航空子会社シルクエア便が墜落したとのニュースを知りました。この墜落は、当時ジャカルタの華僑ビジネスマンの間ではテロではないかと噂されました。

アジア通貨危機の当時と比べると、現在の経済環境はコロナショック前には比較的落ち着いていたものであると観察されます。経常赤字の規模、外貨準備の規模、経済成長率、インフレ率など、国としての脆弱性を表す経済指標を見ると、インドネシアを含めてほとんどの国で大きな改善が見られていました。

その一方で、実際にアジア通貨危機を現地で経験した私にとっては、2018年後半にかけて通貨ルピアが下落したインドネシアの動向は大いに気になりました。それは、同国では近年また経常赤字が拡大しており、ヘッジファンドなどの標的になりやすいからでもあります。また米中新冷戦の中で、インドネシアが米中双方のサプライチェーンに深く組み込まれていることも懸念材料でした。このような状況において起きたコロナショックは感染拡大が収束することに時間を要すると要注意ポイントになってくるのではないかと思います。

実は、私自身がアジア通貨危機の際に現地で経験した周辺国が陥った経済危機へのプロセスが、「新興国からの資金流出→銀行危機→信用収縮→流動性危機→経済危機」だったのです。ヘッジファンドの標的になったことを契機として現地通貨の為替レートが大幅に切り下がり、米ドル建て債務の実質的な負担が増大、同時に海外の投資家が資金を引き揚げたことから地場銀行は資金調達難となり企業は信用収縮を受けて資金繰り難に陥りました。さらには市場全体の流動性が枯渇し、これらが全て重なり合って経済危機へと突入していったのです。

レバレッジが逆回転する?

この時に起きていたことの一つが、「負のレバレッジ」、あるいは「逆レバレッジ」と呼ばれる現象です。借入によって自己資本による投資の収益率を増大させていた「レバレッジ」が、上記のような金融・経済リスクの顕在化によって反転し、リターンではなくリスクや損失を拡大させたのです。

レバレッジに係るリスクは、さらに、流動性リスクや資金調達そのもののリスクとも高い相関関係を有していることにも注意が必要です。これは、マーケットが混乱したような場合において、当該マーケットでの投資対象の流動性が急速に低下、資金の出し手が突然方針変更し、資金を引き揚げるという行動を取ることが 頻繁に観察されているからです。このような場合、レバレッジをかけていた取引はリファイナンスが困難となるばかりか、資金の出し手から投資対象の売却をも迫られ、マーケット全体が悪循環に陥るケースも少なくないのです。そしてこの現象が今回のコロナウイルスによって引き起こされないかを注視することが必要なのです。

今回はコロナショックのリスクシナリオについて考察してきましたが、最後に、コロナウイルス感染拡大が少しでも早期に収束することを心から祈るとともに、企業や組織の危機管理の一環として、いくつかのリスクシナリオを想定しておくこと、それぞれのシナリオが起きた時にどのような戦略や対応を取ることが適切か予め検討しておくことの重要性を強調しておきたいと思います。


上の画像をクリックすると、「コロナショック」が波及する経済・社会・政治の動きを多面的にリポートした記事の一覧にジャンプします

今回のような非常事態における危機管理として重要なことは、悲観的シナリオ・最悪シナリオに対して目を背けるのではなく、むしろそのようなシナリオに対峙し、準備を進めておくことなのです。次回は、これらのリスクシナリオに対してマクロ的に国家ができること、ミクロ的に企業ができることなどについて論考していきたいと思います。

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