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「レジ袋有料化」意味はあるのか――日本での導入がこれだけ遅れた本当の理由 - MSN エンターテイメント

 プラスチックごみの削減を目的として導入される「レジ袋の有料化」。賛否や疑問の声が上がるなかで推し進めるべき政策なのか。そもそも、レジ袋を有料化し、プラスチックごみを削減することで、私たちは環境に好影響を与えられるのか。

 極論や夢物語では解決できない環境問題に真正面から向き合った 『海洋プラスチック 永遠のごみの行方 』 (角川新書)より、レジ袋有料化をどう捉えるべきか解説する。

◇ ◇ ◇

日本独自の「サーマルリサイクル」

 プラスチックはもともと石油なので、よく燃える。燃やしたときに出る熱は、一般の生ごみより多い。だから、プラスチックごみも、燃やしてその熱を利用すれば、見方によっては「エネルギーの再利用」ともいえる。一般のごみにまぜて燃やしたり、固形燃料にしたうえで燃やしたり、いろいろな方法がある。いずれにしても、たんに燃やしてしまうのではなく、発生した熱で発電したり、温水をつくって周囲の施設で使ったりするプラスチックごみの処理方法をサーマルリサイクルという。

 サーマルリサイクルは和製英語で、すでに述べたとおり、世界標準ではリサイクルと認められていない。ふつうは「エネルギーリカバリー」という。日本語では「熱回収」だ。

 世界のプラスチックごみのうち、リサイクルされているのは全体の9%。それに対して、日本のリサイクル率は8割を超えているとしばしばいわれ、リサイクルの優等生の感がある。だが、この「8割」には熱回収が含まれている。

 一般社団法人「プラスチック循環利用協会」の「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」によると、2017年に国内で出たプラスチックごみの総量は903万トン。そのうちリサイクルされたのは86%の775万トンだった。

©iStock.com © 文春オンライン ©iStock.com

 この86%の内訳は、サーマルリサイクルが58%でもっとも多く、マテリアルリサイクルが23%、残りがケミカルリサイクルだ。このほかに、熱回収しない単純焼却が全体の8%あるので、ようするに58%プラス8%の66%が焼却処分されていることになる。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの合計は27%にしかならない。

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虚飾されてきたリサイクル率

 つまり、日本のプラスチックごみは、世界標準でみると7割が焼却処分され、リサイクル率は3割たらずということになる。ヨーロッパ全体のプラスチック協会にあたる「プラスチック・ヨーロッパ」が公開しているデータによると、18年のヨーロッパ各国のリサイクル率は3割前後なので、世界的にみると、日本のリサイクル率はごく標準的ということになる。とくに優等生ではない。

 ただし、日本に多い熱回収がプラスチックごみの処理方法として特異なのかというと、かならずしもそうではない。ヨーロッパのデータには、ごみの埋め立て処分を制限している国々として、スイスやオーストリア、オランダなど国土面積の小さい国を中心に10か国が掲載されており、いずれの国も3割前後がリサイクル、残りのほぼすべてが熱回収にまわされている。環境先進国とされるドイツも、リサイクル率は4割弱で、残りのほぼすべてが熱回収だ。

 日本はこれまで熱回収をリサイクルに含めてきたので、世界的に特異な「リサイクル率」を達成してしまっているだけで、熱回収そのものは、現実には特別な処理法ではない。プラスチック循環利用協会の「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」ではサーマルリサイクルという言葉が使われているが、環境省は最近、それを使わずに熱回収というようになった。

「リカバリー(recovery)」は、広義にはマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、熱回収をまとめて指している。なんらかの形でプラスチックごみを有効利用している。

 リデュース、リユース、リサイクルの頭文字をとって「3R」とよばれることがある。プラスチックにかぎらず、ごみを減らすための心がけを示している。まずはごみを減らし、再利用し、そしてリサイクル。この順でごみの減量を心がけましょうということだ。

世界の波に乗れなかった日本

 さて、海洋プラスチック憲章の話に戻ろう。この憲章では、2030年をターゲットにして、プラスチックごみ削減の目標値を世界の先進国が共有しようとしたが、それに米国と日本は加わらなかった。

 米国は、地球温暖化を抑制する方策について世界が合意した「パリ協定」からの離脱を決めた国だ。地球温暖化の原因となる二酸化炭素を中国についで2番目に多く出しながら、その抑制に取り組む枠組みから離脱した米国。そして、海洋プラスチック憲章でこの米国に同調した日本。日本もまた、米国とおなじく、地球規模の環境問題への取り組みに消極的な国だという印象を与えた。

 日本は海に囲まれ、むかしから海の恵みを受けてきたのに、なぜ海洋プラスチック憲章に署名しなかったのか。その批判に対し、政府は18年6月、「国民生活や国民経済への影響を慎重に検討し、精査する必要があるため」と正式に国会の答弁書で述べている。

 プラスチックごみ問題をなんとか解決しなければならないという世界の流れは、いまに始まったものではなく、15年6月にはドイツで開かれた主要国首脳会議で「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」が策定されている。15年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」でも、海洋ごみを含む海の汚染を25年までに防止するとうたっている。SDGsでは世界が協力して解決すべき17の目標を掲げているが、その具体的な提案は30年を目標年としたものが多い。

それでも環境問題を直視しない日本

 さらに、「海洋中のプラスチックの重さが2050年までに魚を上回る」というショッキングな推定が話題になったのは、16年1月の世界経済フォーラム年次総会。なにより日本は、その年5月に三重県志摩市でみずからが主催国となって開いた主要国首脳会議で、「海洋ごみに対処する」と首脳宣言に書き込んだ。

 海のプラスチックごみ問題に急いで対処しようという世界の流れは、こうして15年ごろから高まっていた。それなのに、海洋プラスチック憲章についての政府の答弁書は、ようするに「まだよく考えていません」「業界など各方面との調整が終わっていません」という趣旨だと国民に受け取られてもしかたのないものだ。日本が世界の波に乗り遅れていることをあらためて印象づけることになった。

 そしてこの答弁書では、世界の20か国・地域が参加して19年6月に大阪で開かれる予定の首脳会合(G20)で海洋ごみ問題に取り組みたいとも述べている。

 日本が世界と歩調を合わせそこなっていたあいだに、世界の国々は、ストローなどの使い捨てプラスチックやマイクロプラスチックについての規制を強めていった。

世界各国の環境問題への取り組みとは

 環境省の資料によると、フランスでは、使い捨てプラスチック容器の使用を20年から原則として禁止する政令を、すでに16年に公布している。化粧品や洗顔料には微小なプラスチックの粒が含まれていることがあるが、イタリアはこれを含む製品の製造や流通を20年から禁止する計画を18年に決めた。イギリスは、プラスチックのストロー、マドラー、綿棒の販売を禁止すると18年に発表した。米ニューヨーク市では、使い捨ての買い物袋の使用、公園でのペットボトルの販売はすでに禁止されているという。台湾でも、19年から使い捨てプラスチック容器などを段階的に禁止していく。

 米国は、海洋プラスチック憲章に参加しない連邦政府とは別に、プラスチックごみ問題に積極的に取り組んでいる州や市がある。カリフォルニア州では、14年に使い捨てレジ袋の使用を禁止する法律が米国で初めて成立した。15年、16年と段階的に実施される予定だったが、新法の廃棄をめざす住民投票が16年に行われ、その結果、レジ袋はやはり禁止されることになった。ニューヨーク州もレジ袋の使用禁止を19年に決めた。ハワイ州では20年1月から、レジで渡すビニール袋の使用が禁止された。

民間主導のリサイクル

 民間企業の取り組みも始まっている。

 コーヒーチェーンのスターバックスは18年、プラスチックストローの使用を、20年末までに世界の全店舗でやめると発表している。スターバックスコーヒージャパンは、20年から紙ストローの提供を始めた。国内で年間2億本のプラスチックストローを削減できるという。コカ・コーラ、マクドナルド、ネスレなども、ペットボトルの原料にリサイクル素材を使ったり、包装や容器をリサイクル可能なものに替えたりしていくことを公表した。

 さきほどの政府の答弁書にも書かれていた主要20か国・地域の首脳会合(G20)が19年6月、大阪で開かれた。その首脳宣言には「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」と書かれている。もう海に出てしまったプラスチックごみを回収することはできないが、すくなくとも新たなごみの流入は50年までにゼロにしようというわけだ。

 この首脳宣言に対しては、疑義もあいついだ。まず、目標年が「2050年」であること。ちょうど1年まえに合意された海洋プラスチック憲章では2030年を目標にすえていたので、問題の解決を20年も先送りにした感があった。「社会にとってのプラスチックの重要な役割を認識しつつ」「革新的な解決策」といった現状肯定的で、まだ見ぬ技術に期待するかのような文言も並んでいた。

 この首脳宣言に、環境保護団体はすぐさま反応した。たとえばWWFジャパンなどは、「2050年」では遅すぎると批判した。海洋プラスチック憲章と同様に、「2030年」までの削減目標を日本政府が率先して示すべきだと訴えた。

 朝日新聞の19年7月4日付夕刊によると、交渉の過程ではヨーロッパなどから「2030年」を求める意見が出ていたという。50年では遅すぎるというのだ。それに対し、途上国などから今後10年では回収やごみ管理の体制を整えきれないとの意見が出され、結局は「2050年」になった。

「一所懸命がんばります」では実効性に欠ける

 海洋プラスチック憲章にくらべて具体性に乏しいという指摘もあった。憲章には「100%」「55%」「50%」などの数値目標が掲げられていたが、G20の首脳宣言や関連文書は、世界が共通の目標とすべき数値に乏しい。海洋プラスチック憲章に加わらなかった日本政府が、みずからがホスト国となるG20では、こんどこそ世界をリードする数値目標を提示するのではないか。そんな期待をよそに、「一所懸命がんばります」では実効性に欠けるのではないか。しかも目標は50年だ。さきほどのWWFジャパンなどの批判は、その点をついている。

 もっとも、日本がプラスチックごみ問題に対し無策だったわけではない。事実、プラスチックごみのリサイクル率は、ヨーロッパ諸国なみの3割を保っている。

 ごみのリサイクルについては、その種類ごとにいくつものリサイクル法が定められている。たとえば、使い捨てのプラスチックごみになりやすい包装や容器についてリサイクルを義務づける容器包装リサイクル法は、1995年に制定されている。不用になったテレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンについては、98年に制定した家電リサイクル法で、メーカーにリサイクルを義務づけている。これはプラスチックごみを対象としたものではないが、家電製品には多くのプラスチックが使われており、間接的にはプラスチックごみ対策といえる。

 2000年に制定された循環型社会形成推進基本法は、使い捨て社会から脱するための基本的な姿勢を定めた法律で、まず取り組むべきはごみそのものを減らす「リデュース」、そして「リユース」「リサイクル」、それでもだめなら「熱回収」というように優先順位を示している。

 このように、社会の実情にあわせて新法を追加したり修正を加えたりして、ごみの減量と処理に取り組んでいる。

意識改革の遅れは「ガラパゴス化」が要因か

 それにもかかわらず、日本の取り組みが遅々として進んでいないようにみえるのは、やはり世界の流れに乗れていないことが背景にあるのではないか。ごみ事情は国によって違うので、世界の国々とおなじことをするのがベストとはかぎらないが、たとえばレジ袋の規制や有料化にしても、各国が次々に導入を進めているなかで、日本はやっと20年7月にスタートさせる。「どうせやるなら、なぜこんなに遅くなるの?」というのは、ごくふつうの市民感情だろう。

 日本政府のさまざまな取り組みには、世界の流れに背を向けて、ときに「ガラパゴス化」と揶揄される独自路線をとる傾向があることも、国民に疑いの気持ちを抱かせている原因かもしれない。

 たとえばエネルギー問題。11年の東日本大震災で東京電力の原子力発電所が大災害をおこしても、世界的に原発への懐疑的な見方が強まるなかで、いまだに原発への志向は消えない。地球温暖化の原因となる二酸化炭素を大気中に放出する石炭火力発電についても、政府は増設を計画している。19年12月にスペインで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)」では、石炭火力発電を進める日本政府の姿勢に対し、小泉進次郎環境相が環境NGOから批判をあびたと伝えられた。世界が太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーへとかじを切っているなかで進めるこのようなエネルギー政策に、違和感をおぼえる国民も少なくないだろう。

 地球温暖化にしてもプラスチックごみにしても、環境問題はとかく極論に走りがちだ。個人のレベルでも業界のレベルでも、あらかじめ用意した自説を曲げず、感情的になる。それでは事は動かない。ごみ問題は、それぞれの国、社会に特有の面もあり、そのうえで世界が協力しなければ解決に向かわない。日本がいま一方的に困った国だというわけでもないが、かといって、こと海のプラスチックごみ問題については「後進国」になるわけにもいかない。予定調和的な物言いで恐縮だが、日本が世界と協調して、いやリードして対策を講じていくことができるよう、市民一人ひとりが冷静に関心を持ち続けることが、やはり大切なのではないか。

レジ袋の有料化はレジ袋の値上げ?

 20年7月からレジ袋の有料化を義務づけることが決まったのは、19年末の国の検討会だった。植物などを原料にしたプラスチック成分を25%以上含む袋や、使い捨てになりにくいと考えられる厚さ0・05ミリメートル以上の袋などの例外はあるが、全国すべての小売店で、レジ袋は原則有料となる。

 もっとも、レジ袋の有料化は、国が規制するまでもなく、すでに社会に広まっている。京都大学の酒井伸一教授らの調査によると、国内で17~18年に使われたレジ袋は国民ひとりあたり年間約150枚と推定され、08年の時点から半減している。

 レジ袋1枚の重さを大きめに見積もって10グラム、年間約150億枚とすると全部で15万トン。国内で出るプラスチックごみの総量は年間約900万トンなので、レジ袋のしめる割合は1・7%。レジ袋は身近で目につく使い捨てプラスチックではあるが、プラスチックごみ全体にしめる割合は、ほんのわずかだ。

 また、たとえスーパーなどがレジ袋を無料で配っていたとしても、スーパーはそのレジ袋を無料で仕入れているわけではなく、その費用は商品の価格などにもともと含まれている。レジ袋はむかしから有料だったわけだ。そう考えると、今回のレジ袋の有料化は、レジ袋をあらためて「有料化」し、商品価格とは別にさらに消費者に負担を求める制度だということになる。「有料化」というよりも、むしろレジ袋の値上げであり、「あなたはレジ袋にお金を払っているのですよ」と消費者に意識づける「可視化」の意味合いが強いともいえそうだ。

 レジ袋は使い捨てられやすいプラスチックであり、環境を汚す、とてもやっかいなプラスチックごみだ。したがって、レジ袋を徹底的に減らそうという動きに、もちろん意義はあるだろう。だが、それで安心してはいけない。プラスチックごみの総量にくらべれば、その割合はとても小さいことも知っておいてほしい。ほかにもやるべきことが、たくさんあるということだ。レジ袋の有料化を、プラスチックごみに対する社会の意識を高める象徴として、確実なごみの減量につなげていきたい。

マイバッグはレジ袋の約50倍二酸化炭素をだす…「レジ袋使用は環境にやさしい」の真偽 へ続く

(保坂 直紀)

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