国民の考えや意見を吸い上げる努力がもっと必要です(撮影:今井 康一)
昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する――。野口悠紀雄氏による連載第10回。
コロナウイルスの感染拡大を国民がどのように捉え、何を望んでいるかを把握するのは、大変重要なことです。
外部サイトになりますが、私は「note」のブログで、これまで7回のアンケート調査を実施しました。その結果の一部を、以下に紹介します。こうした国民の声が政策に反映されることを、願ってやみません。
いま必要な政策は何か?
「コロナウイルスに対して政府がなすべき施策に関するアンケート調査」(3月4日)については、83件の回答が寄せられました。
圧倒的多数の回答が、「医療支援: 検査・治療体制の充実」(全回答中の71.1%)と「状況の正確な把握と情報提供」(同67.5%。複数回答可としたため、比率の合計が100%を超えます)を求めています。
これに続いて、「所得喪失者の援助」(39.8%)、「金融支援(資金繰り対策)」(38.6%)があります。
以上の回答が多数であったのに対して、「景気対策、金融緩和」は、15.7%しかありませんでした。経済関係者からは景気対策を求める声が強いのですが、それに対する支持率は、このように低いことが注目されます。
その他、自由意見として、次のような回答が寄せられました(多数の意見があったため、かなり省略してあります)。
「医療は重症者への対応に特化」
「検査能力の強化、隔離施設の確保、入院病棟の確保、一部業界の業務停止命令による交通機関の混雑の劇的な緩和、街頭や電車、駅などの消毒」
「手作りマスクの作り方やハンカチ等の簡易マスクなど、各自でできる代替品を確保する方法について知らせたらよい」
「正確な情報開示」
「社会的経済ダメージのケアをしっかりお願いしたい」「トイレットペーパーの買い占めが起きている。原油価格は低下している。日本国民は歴史から学ぶことができると訴えてほしい」
「対応の大枠の決定。(1)国家的な非常時とみて、個人の権利や自由を侵害してもなすべき対応策があるとするのか、それとも(2)少し感染経路が異なるインフルエンザであるとみて、いくつかの注意点は国民に広く共有してもらうが、日常生活をなるべく続けて、社会・経済・文化活動を阻害したり心理的ストレスを増やさないようにつとめるのか、どちらかを明確にしてほしい。
個人的な見解としては、(1)の中国のような”ハード”な対応よりも、(2)をとって、重症化した患者のためのセーフティーネットづくりと情報の透明性を保つことに力を注ぎ、中国とは異なる市民権を重んじる国ならではの”ソフト”な対応策をとってほしい」
「子供のいない社員への負担が増し、しかも不満を言えない状況にある」
「パンデミックの危機管理チームを作っておくべき。認識に誤りが多い。隔離は時間稼ぎにはなることは認められるが、免疫力を高める対策が重要。ゆえに糖尿病や血管系の疾患などの持病を持っている人は致死率が高くなるので閉鎖空間で隔離するのは愚策。それよりもストレスをできるだけ除去し、血液循環を適正に保ち、散歩などの適度な運動をさせるべきだ。そして、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が滅亡したように自然界にその駆除を委ねるほうがよい」
特別措置法については、反対意見が多かった
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正案は、3月11日、衆院内閣委員会で可決されました。
それに先立ち、この問題に関するアンケートを3月6日に実施し、120件の回答を得ました。
結果は、「賛成」が33.9%、「反対」が66.1%でした。
また、「緊急事態宣言」に対しては、「賛成」が27.7%、「反対」が72.6%でした。
自由回答では、非常に多数の意見が寄せられました。強く反対する意見が大部分を占めました。残念ながら、分量の制約で、ここでは紹介しきれませんが、ごく一部だけを紹介すれば、以下のとおりです。
「あくまで暫定改定として。ただ、インフルに比べウイルス正体が不明確なので、対象の詳細が判明次第、改定を行うべき」
「『緊急事態』の定義や発令の要件が、現状では議論が十分に交わされておらずあいまいなままに思える」
「現行法でも非常事態宣言は可能」
「現行法でできることを、わざわざ時間をかけて改正する意味がわかりません。新型コロナへの対応を見てきた限り、現政権に対する信頼を持てずにいるので、大きな権限を思いつきで使われないよう、祈るような気持ちでおります。審議時間が少ないですし、改正内容も不安です」
「緊急事態の宣言はあくまでも慎重に行うべきだと思います」
「もっと早く検疫強化すべきだった。また、ダイヤモンド・プリンセス号の隔離ははたして十分だったのか疑問が残ります。すべてが後手で場当たり的です」
「休業補償もはたして小さい子供を持っている家庭に届くのか? 子供を家に置いて働かざるをえない人たちのフォローはできているのか?」
「今あるものでどうにかできないかを明確にすべき」
「必要性を感じない。現行法で十分」
「緊急事態を拡大解釈した意思決定がなされることに危うさを感じています。無論、事態の収束に限定したものであればよいのですが」
「民主主義のデメリットを勘案すると、非常時の政府権限強化は必要と考えている」
「多少の権利侵害があろうとも迅速に対処することが必要」
「措置を出せる要件や手続きが報道されていないので、判断材料が十分でない。改正に時間かけるより、経済と社会混乱の具体策を出すことを考えてほしい」
「緊急事態の宣言、執行、停止は、適切なデュープロセスが必要です」
こうした意見があることに鑑み、特措法の執行に関しては、ぜひ慎重さを望みたいと思います。
政府のイベント自粛要請によって、すでに多くの所得が奪われています。
これについての対策は、緊急を要する重要なものですが、同時に極めて難しいものです。
これまでの措置を見ると、雇用されている人々に対する対策が先行していると考えざるをえません。
最初に実施が約束されたのは、臨時休校による保護者への助成金支給でした。
この問題に関して、「政府が決めた臨時休校による保護者への助成金支給についてアンケート調査」を3月3日に実施し、69件の回答を得ました。
結果は、次のとおりでした。
「フリーや自営業者が対象外なのは不公平」が25.0%。
「フリーや自営業者は、イベント自粛要請で収入そのものが減る。この対策の方が重要」が19.1%。
「休校措置の効果は疑わしい」が51.5%。
こうした批判的な意見が多かったのに対して、「適切な措置だ」は、7.4%しかありませんでした。
しかも、休校措置に伴って、さまざまな問題が発生します。例えば、自由回答の中で、次のような意見がありました。
「子ども対象の学習教室を運営しています。休校に伴い教室も休まざるをえず、『休会』の申し出が生じています。休室に伴い、スタッフも休みにすると、スタッフの給与も減ります。スタッフは、小学生の親でもなく、仕事を休まざるをえないという対象でもないので、補償が得られません」
「今回の助成金は法人を対象としている、としたほうが正確ではないかと思います。いずれにしても、貧しい人々が得することはありません」
「助成金を出すのであれば、すべての国民とすべき」
「私もフリーランスなので、本当に切実な問題です」
「組織に縛られない働き方」に疑問が生じてしまう
「臨時休校による保護者への助成金支給」は、雇われている人に限定された措置でした。
しかし、フリーランスであってもまったく同じ問題が生じるわけで、不公平な措置だと考えざるをえません。
すでに、音楽、演劇関係者から、悲鳴に近い声が出されています。
また、宿泊業、飲食サービス業、小売業も、売り上げの激減に直面しています。こうした人々に対してどのような対策を講じるかが、真剣に考えられなければなりません。
私は、これまで組織に依存するのではなく、自分自身で仕事を行うフリーランスが広がることこそが、日本の活力を高める方策であると信じてきました。
政府も、働き方改革の中で、そのような方向を示していたはずです。
しかし、以上のような実態を見ると、考え込まざるをえなくなってしまいます。
フリーランサーが適切に扱われていないという批判が高まったため、政府はフリーランサーに対しても措置を講ずるとしました。しかし、業務委託契約等がある場合に限られているなど、決して十分な措置とは考えられません。
これについては、3月12日にアンケートを実施しました。
政府は、4月に緊急経済対策をとりまとめる検討に入ったと報道されています。子育て世帯への支援を中心として、現金給付案などが浮上していると言われます。
これについて何よりも望みたいのは、消費支出などを増やすことを目的とした景気浮揚策であってはならないことです。リーマン・ショック後に行われた現金給付策は、そうした目的のためのものでした。
しかし、いま必要なのは、景気浮揚策ではありません。
自粛要請によって生活の糧そのものを失いつつある人々への対策です。
前述のように、「コロナウイルスに対して政府がなすべき施策に関するアンケート調査」で、「景気対策、金融緩和」に対する支持率が15.7%でしかなかったことを、もう一度強調したいと思います。もし現政権が株価対策に走るなら、多くの国民の離反を招くでしょう。
人々の意見を吸い上げてほしい
コロナウイルスの問題は、日本社会の基盤に関わる重要な問題です。国民の考えや意見を吸い上げる努力が、もっとなされてしかるべきだと考えます。
例えば学校休学要請については、事前の広範な意見聴取は無理としても、学校関係者の意見を聞くことは必要であったと考えられます。この問題は、新学期になってからの措置をどうするかにも関係します。
ここで紹介したアンケート調査は、私が個人的に行っているものであり、サンプル数も新聞社等が行う世論調査に比べてかなり小さいことを認めざるをえません。
また、私が個人的にnoteに開設しているブログ内で行っているものであるために、サンプルセレクションバイアス(標本が特定の人に偏っていること)があることも否定できません。
しかし、このような意見が存在することが重要なのです。
(※)以上の結果は、noteにも公表しています(「みんなの意見」はおおむね正しい:アンケート調査と結果)。ただし、以上で紹介したのは、結果公開後の回答も含めているため、noteに掲載したものとは、若干数字が違っています。
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March 15, 2020 at 05:50AM
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