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関西電力 原発に巣くう“閉鎖性” - NHK NEWS WEB

関西電力 原発に巣くう“閉鎖性”

関西電力の経営幹部らが原発がある福井県高浜町の元助役から3億円を超える金品を受け取っていたという前代未聞の不祥事。調査にあたった第三者委員会は関西電力の企業体質を「極端な内向き文化」と批判しました。調査で、もう1つ指摘されたのが金品受領と原子力事業との関係性です。電力会社の経営を支える原子力事業に問題の原因があったというのですが、それは何なのかに迫ります。(大阪放送局記者 谷川浩太朗)

原子力部門が病根

「原子力事業本部が病根だった」「独立王国のようになっていた」第三者委員会の但木委員長は、最終報告書を公表した3月14日の記者会見の中で厳しいことばを使って、今回の問題の根底に原子力事業本部の体質が原因になっているという認識を示しました。報告書では、高浜町の森山栄治元助役から金品を受け取っていた役員や社員は75人としていて、このうち6割が原子力関連の部署に所属していました。

原子力は“エリート集団”

病根と指摘された関西電力の原子力事業とはどんな部門なのでしょうか。それには歴史をひもとく必要があります。関西電力は1970年、大手電力会社としては初めて原子力発電所の運転を開始。当時、大阪万博の会場への送電に成功したことを高らかにうたっていました。その後も原発を次々と新設し、全国の電力会社のなかでも「原発のトップランナー」と呼ばれていました。2002年には発電量の65%まで原発比率を高め、福島第一原子力発電所の原発事故が起きるまで、ほかの電力会社よりも電気料金を低く抑え、関西経済に貢献していることを自慢していました。

原子力は技術の粋を集めたエネルギーですから、技術者を中心にそこで勤務する社員はエリート扱いされます。複雑かつ高度な知識が必要とされ、当局との調整も頻繁にあることから、おのずと人事交流が停滞していったのです。

本部の移転で独立王国に

ただでさえ、外からの声が届きにくい原子力事業本部。会社と森山氏との関係が一段と深まるきかっかけとなったのが2004年に起きた原発事故でした。福井県にある美浜原発で配管が破損。高温の蒸気が噴き出し、作業員5人が死亡しました。事故を受けてもともと大阪の本店にあった原子力事業本部が美浜町に移転。但木委員長が言うように「独立王国」になっていったのです。

原子力事業本部の閉鎖性

報告書では原子力事業本部の閉鎖性を指摘しています。その背景として▽技術的に特殊であるうえに▽政治問題・社会問題になりやすいという点▽原発の再稼働が経営に大きな影響を与える点をあげて「閉鎖的な村社会が形成され、正しい意見が実現しづらくなっていたことが見受けられる」としています。

会長が”先生”と呼ぶ人物とは

第三者委員会の但木委員長が「病根」と表現した原子力事業本部。この部門のトップを長年務めたのが豊松秀己元副社長です。

豊松氏がいかに強大な権力を握っていったか。それを印象づけることばを聞いたことがあります。私が八木誠前会長に取材したときのことです。部下であるはずの原子力部門担当の豊松秀己元副社長のことを「豊松先生」と呼んでいたのです。なぜ経営の実質トップである会長が副社長を先生と呼ぶのか。この強烈な違和感はのちに豊松元副社長が元助役から1億円を超える金品を受け取っていたこと、さらに業績不振でカットされた役員報酬の一部が退任後にひそかに補填(ほてん)されていた事実を知って合点がいきました。豊松氏こそ、原発事業のトップにとどまらず、会社本体にも影響力を行使する存在、いわゆる「ドン」だったのではないでしょうか。

豊松元副社長は2011年の原発事故後、関西電力の業績が悪化した時期に役員報酬の一部カットを受けました。しかし2016年から2019年10月までひそかに補填を受けていました。その額は毎月90万円。さらに森山氏から巨額の金品を受け取り、後に国税当局に個人で修正申告で納税した分まで毎月30万円を会社から補填されていたというから驚きです。

補填をやめたのは金品受領問題が明るみになった翌月、2019年10月。関西電力は「金品受領問題で経営が悪化する可能性があるため廃止した」と説明していますが、第三者委員会に指摘されるまで自らの手で公表することがなかったことを考えれば、会社の隠ぺい体質が露呈したケースといえるのではないでしょうか。

元助役との癒着の構図

森山氏と原子力事業とのなれ合いの関係も報告書で明らかになっています。第三者委員会は「当社に対する寄与内容」という内部文書の存在を明らかにしています。この文書には森山氏が1970年代から1980年代にかけて原発事業にいかに貢献してきたか、具体的な事例が書き込まれています。

中には助役として行う一般的な行為も記されていますが▽旧ソビエトのチェルノブイリ原発事故に際し、地元団体からの町に対する陳情書を町かぎりにとどめ、公にしなかった▽高浜3号機での死亡事故時には、警察や関係者に圧力をかけて、事態を穏便に済ませてくれた▽交通事故等のトラブルに対し、素早く行動して地元から批判できないよう措置してくれたなどの事例もあげられています。

第三者委員会も「適切な解決が行われているのか疑わしいものも多々含まれている」と疑問を呈しています。常軌を逸した電力会社の原発部門と自治体の幹部。すでに70年代から癒着の構図ができあがっていったことが読み取れます。

会社を一から作り直す決意はあるか

部門ごとに事業を推進していった結果、壁ができて組織が硬直化し、まわりの正しい意見が耳に入らなくなり、次第に競争力を失っていく。企業経営の失敗例としてよく聞く話です。しかし、関西電力で信じがたい不祥事が起きていた現場は、プルトニウムを扱う原子力部門です。顧客である電気の利用者のことをみじんも考えずにただ、自分たちの理屈を優先し、発電事業を行うとしたらこんな危険なことはありません。

かつて韓国のサムスン電子の会長が1990年代、経営方針を転換するにあたって幹部をしった激励した際に使った有名なことばがあります。「妻と子ども以外はすべて変えろ」。関西電力の新しい経営陣はこのことばのような覚悟をもっているでしょうか。会社を一から作り直すような強い決意が今、問われています。私は経営改革の行方を厳しく取材してきいたいと思っています。

大阪放送局記者
谷川 浩太朗
平成25年にNHK入局
沖縄局を経て地元・大阪で経済取材を担当

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