終盤、病にふせっていた音(二階堂ふみさん)が「海が見たい。あなたと出会った頃のように。歌を歌いたい」と力なくつぶやく。そこで裕一(窪田さん)は「分かった。行こう」と外へ連れ出そうとする。すると二人は若返り、手を取りながら海に向かって走り出し、そのまま砂浜で二人が戯れる……というシーンが繰り広げられた。
本編の最後にふさわしい明るく美しいシーンとなったが、「エール」のチーフ演出で、脚本も手掛けた吉田照幸さんは、「そのまま病床で音が亡くなるってうのは収まりはいいのですが、何か嫌だなって思っていました。収まりがいいだけに『エール』じゃないなって。最後は海で撮ろうと決めてたので、ある日、歩いていたら、足元が砂浜になったら面白いんじゃないかって思いついてやりました」と話す。
また「『エール』の中には、他の人たちがやった面白いと思うことを拝借して、アレンジしてやっているところもあるのですが、あそこだけは全くそういうものがなかったので、現場で無音で撮っていたときには、本当に視聴者が感情移入できるのかって試写までは不安でした」と本音をぽろり。それでも「編集室で一回音楽をつけて初めて見たときに、自分で撮ったものなのにゾワッっとしたんですね。言葉では説明できない感動ってあるんだなって、二人の人生の重みとかが自分の中に返ってきたというか」と振り返る。
撮影前に裕一役の窪田さんと音役の二階堂さんには「とにかく走っていってくれ」とだけ伝えた。そのため、そこから先は完全に二人の自由演技で、しかも一発撮りだったという。
「あの二人の関係でしか生まれないものがあると思っていた」という吉田さんは、「カメラも極力遠くに置いて“野放し”。海に向かって走っていってもらって、その先から何も演出していないです」と状況を説明する。
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